熱処理とは ~「焼きもどし」について~

 曽田製作所では、素材調質から熱処理・機械加工まで社内で一貫生産をしております。創業80年を超える歴史の中で、昭和30年代、ブルドーザの土砂などを掬いあげる「ブレード」と呼ばれる部分の焼き入れ作業を主に行っていた時期もありました。この「焼き入れ」作業の受け入れが現在の一貫生産につながる重要な転機となりましたことは前回のブログ記事の通りです。

 熱処理の工程において素材の品質を大きく左右する重要なこの「焼き入れ」作業は、「焼きもどし」と必ずワンセットで行われます。
 焼き入れをすることによって鋼材は硬さを得ることが出来ますが、引っ張る力には極端に弱くもろいためそのままでは使えません。なぜなら焼き入れだけでは内部に「応力」が残るためです。応力とは、外部から受けた力によって内部に生じるストレスのことであり、焼き入れのような急激な冷却を行うと金属内部の結晶に欠損やズレが多く残り、不安定な状態になります。この応力を再加熱することで取り除くのが「焼きもどし」です。「焼きもどし」という再加熱処理を行うことによりその応力をなくし、結晶を調整して、硬さの調整、内部応力の除去、粘り強さ(靭性)の向上を得ることが出来ます。

 鋼材の原子は加熱し、ある温度(約723℃)を超えると結晶内に炭素などの別の原子を取り込みやすいオーステナイト結晶と呼ばれる構造(面心立方格子)に変化するということは前回の「焼き入れ」の説明の際にお話ししました。「焼きもどし」では、そのオーステナイト結晶に変態する温度より低い温度まで加熱し、冷却する処理を行います。
 また、焼きもどし温度によって得られる特性に違いがあり、焼き入れ後、高温で焼きもどしを行う高温焼きもどしと、低温で焼きもどしを行う低温焼きもどしがあり、前者を「調質」、後者を「焼き入れ」と呼び、区別します。どちらも焼き入れ後すぐに行うことが必要で、およそ3時間以内に行わないと焼き割れを起こします。

 高温焼きもどしである「調質」は、焼き入れ後、約550~650℃まで加熱し、冷却します。
 調質を英語では「thermal refining」と言い、直訳するとthermal:熱、refining:再び細かくする、であり、すなわち熱によって結晶粒を微細化させることを指します。結晶粒が小さくなると結晶粒同士の境界線である結晶粒界が増えて、変形や切断への抵抗となるため、ねばり強く靱性が上がるため、衝撃に対する強さが高まります。
 調質の際、原子の世界では次のような変化が起こっています。
 焼き入れの加熱によってフェライト結晶からオーステナイト結晶に変化し、急冷することによって体心立方格子の中に炭素などを取り込んだマルテンサイト結晶になりますが、内部に多少のオーステナイト結晶が残ります。焼きもどしによって、その残留オーステナイト結晶の組織を消失させることでひずみが除去されるのです。
 また、焼きもどしの過程で、マルテンサイト結晶が変化し、フェライト結晶と、セメンタイト結晶と呼ばれるフェライトと炭素と化合した炭化鉄Fe3Cが析出します。マルテンサイト結晶が減る為に強度は落ちますが、硬いセメンタイト結晶の出現による析出硬化が起きるため、落ちた強度はある程度補われます。
 更に、焼き入れ前よりも結晶粒が微細化し、結晶粒界が複雑になることにより、原子の滑りを妨げる大きな抵抗となることから、変形しにくく、硬さが増し、靱性が高まります。

 低温焼きもどしでは、焼き入れ後、150℃~200℃まで加熱し、冷却します。
 焼き入れしっぱなしでは硬いがもろいため、低温の再加熱でもろさを除く処理です。内部応力は50%程度消滅し、マルテンサイト結晶が多く含まれ、あまり硬さを下げないので摩耗に強くなります。もろさをなくすだけの熱処理で、硬さが必要な時の操作です。

 この高温焼きもどしと低温焼きもどし以外でも、300℃で焼きもどしをすると粘るどころかもろくなったり、400℃から550℃では弾性が生じるばねもどしとなったりと、焼きもどしの温度を変えることで様々な性質の鋼材に調整することができるのです。

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